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高流動コンクリートについて(定義、ニーズ、問題点、現状と今後の開発)【技術士・建設部門 コンクリート】


 コンクリート工学Vol.55No.9の特集:生産性向上に係るコンクリート技術の現状から自分用に高流動コンクリートのことを簡単にまとめようと思います。

 

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高流動コンクリートの定義

JIS

 JIS A  0203:コンクリート用語「材料分離抵抗性を損なうことなく、流動性を著しく高めたコンクリート」

 流動性はスランプではなく、スランプフローであらわされる。

 ちなみにJIS A 5308ではスランプフローの規定があるのは高強度コンクリート(呼び強度:50、55および60)のみであり、フロー値は50cmまたは60cmとなっている。

 つまり、高強度コンクリートの一部が高流動コンクリートとなっていて、高流動コンクリートとして単独で定義されているわけではない。

 

建築学会

  JASS5では高流動コンクリートのスランプフローは55、60および65cmを標準としている。

 →JISとは異なり、高流動コンクリートとして規定している。

 

土木学会

 土木学会(示方書)では、

  • 締固めが不要の自己充填性を有するコンクリート
  • 締固めを要する高流動コンクリート(自己充填性を有さないコンクリート)

 と2種類の高流動コンクリートと定義している。ただし、締固めを要する高流動コンクリート、いわゆる中流動コンクリートについては規定があるわけではない。

 

定義のまとめ

 JIS、建築学会および土木学会においてスランプフローで管理する高流動コンクリートの規定はあるものの、中間領域であるスランプ21~25cm、スランプフロー35~50cmの範囲の流動性を示すコンクリートについては規定がないのが現状である。

 ただし、土木分野ではこの領域の規定について発注機関が独自に定めて運用している。

 

高流動コンクリートのニーズ

 建築分野において、CFT(鋼管柱の内部にコンクリートを充填して柱として使用)と免振装置の基礎としてニーズがある。

 

CFTに用いられる理由

 CFTはほとんどの場合、打設時の締固め作業が不可能となることから自己充填性を有する高流動コンクリートが必須となる。施工時の留意点として、充填性を確保するためにブリーディング量の規定値を満足する必要がある。

 

免振装置に用いられる理由

 免振装置は締固めが不可能で、かつ密実な充填が求められる部位について高流動コンクリートが用いられている。

 

高流動コンクリートの問題点

 1980年に人手不足を背景に施工の省力化、合理化を目的とて開発されてが高流動コンクリートは国内コンクリートの普及率0.1%(海外では1.5%)と非常に低く、その理由は①材料・調合上の問題、②施工上の問題があると考えられている。

 

①材料・調合上の問題

  • 高流動コンクリートとするためにはセメントなどの粉体量を増加させる必要があり、高価になることや高セメント量であるために水和熱による温度ひび割れのリスクが高まるといった問題がある。
  • 回収水による悪影響の程度が確認しきれていないため、回収水の使用は不可とする。

 

②施工上の問題

  • 流動性が高いため、型枠に作用する側圧が大きくなり、型枠に補強が必要となり、費用面、工程面で問題がある。なお、側圧は液圧として計算を行う。
  • 自由落下高さは分離が生じない範囲とする。
  • 練混ぜからの経過時間が長すぎると(特に)スランプフローの低下が大きくなり、自己充填性が失われたりするので、運搬時間・距離の少ない近くの工場を選定する。
  • ブリーディングがほとんど生じないため、表面の急激な乾燥に伴うプラスティック収縮ひび割れが発生しやすい。

 

高流動コンクリートの現状と今後の開発

現状の開発

  • 近年では増粘成分を含有した増粘型の高性能AE減水剤や流動化剤が開発され、セメント量を増加することなく流動性と材料分離抵抗性を両立することが可能となって、①材料・調合上の問題の一部を改善しつつある。

今後の開発

  • JIS A 5308の次回改定では増粘型高性能AE減水剤を用いた一般強度領域のスランプフロー区分が検討されている。
  • 建築学会でも流動性が中間領域であるコンクリートの定義を進めることとなっている。

 

感想

  • 高流動コンクリートの普及率(国内:0.1%、海外:1.5%)が低く、よく話題になっている割に圧倒的に使用されていないことに驚いた。
  • 阪神淡路大震災以降、耐震性を高めるために過密配筋化が進むため中流動コンクリートのニーズが高まり、技術士の試験問題としてもよく出題されることが予想されるため一通りまとめることができてよかった。
  • コスト増となることは知っていたものの、温度ひび割れや型枠の補強が必要といった弱点は初めて知れたので良かった。

 

 

技術士まとめへのリンク

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